その他の包括利益が果たしている役割~「会計・監査ジャーナル」2024年1月号~
- 佐藤篤
- 2023年12月19日
- 読了時間: 3分
「会計・監査ジャーナル」2024年1月号のアカデミック・フォーサイトは「包括利益計算書でその他の包括利益が果たしている役割について」(山田辰己)でした。
会計士試験を受験していた頃に存在しなかった会計基準・開示には少し苦手意識があるのですが、包括利益計算書はまさにそれに該当します。
そんな個人的事情(?)もあって、早速読んでみることにしました。
以下、メモ書きです。
OCIはIAS第1号では「その他の包括利益とは、他のIFRSが要求又は許容するところにより純損益に認識されない収益及び費用(組替調整額を含む。)を言う」と定義されている(IAS1.7)。
OCIに含められる収益及び費用は、「資産又は負債の現在の価値の変動から生じる収益又は費用」に限定されている。
OCIに含めることが純損益の目的適合性を高めるか又は会計年度の忠実な表現を提供する場合にのみOCIに分類する例外的会計処理が許容される。
著者(注;山田先生)は、OCIに分類される収益及び費用は、収益又は費用ではあるが、その発生時点で純損益に反映させたくないものであり、OCIはそれを処理するためのツールとして用いられていると考えている。
IAS第19号確定給付建年金の再測定においてOCIが導入されたのは、制度資産や確定給付制度債務の期末残高が実際の残高を反映するように基準改正されたものの、それに伴う純損益の変動性を回避するため、旧基準の利益平準化の思想を引き継いだ会計処理が形を変えて導入された結果である。
IAS第21号為替換算調整勘定が純損益では認識されない理由として、為替レートの変動が営業活動からの現在および将来のキャッシュ・フローに与える直接の影響が、ほとんど又は全くないからだと説明されている。
上記から、在外営業活動体(子会社)の処分時に為替換算調整勘定をOCIから純損益に組替調整するのは、子会社の処分によって親会社の子会社投資のキャッシュ・フローが回収されることに対応した処理であることが理解できる。
筆者(注;山田先生)がIASBで基準設定に携わっていた時は、本来、収益及び費用として純損益で認識すべき項目であるものの、当該処理に多くの反対がある時にはOCIで認識することで、理論と実務とのバランスを取ることを考えていた。このような点を理解することでより深いIFRS会計基準の理解につながると思われる。
感想
OCIが理論と実務の調整弁として機能しているということは何となく気が付いてはいましたが、IASBで実際の基準設定に携わっていた山田先生がそのようにお書きになっているのを読んで少し安心(?)しました。こういうことは基準書本文には書けないですし。
正直、目新しい発見はありませんでしたが、少し知識の整理にはなった気がしました。
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