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日本企業は政府や投資家への還元に積極的か~会計監査ジャーナル2021年7月号「アカデミック・フォーサイト」の感想

  • 佐藤篤
  • 2021年7月6日
  • 読了時間: 3分

「会計監査ジャーナル」には「アカデミック・フォーサイト」という連載記事があります。


この記事はCPE(継続的専門研修制度)の単位認定対象外記事であるため、基本的に読むことはないのですが(著者の皆様申し訳ございません)、2021年7月号の記事内容は面白そうだったので読んでみることにしました。

その記事は「世界の上場企業の財務データ解析」と題され、内容的には世界154カ国の全上場企業9.6万社超の1990年度から2018年度までの29年間の財務データを用いて様々な分析を行うというもので、かなりの力作になっています。

そして当該記事の結論が冒頭に記載されており、それは以下の通りとなっています。

  1. 日本企業の収益性と安全性は全ての国で見てもGDP上位10カ国で見ても中位

  2. 租税回避の蓋然性が低く、配当性向の中央値が高いことから、政府や投資家への還元に比較的積極的に取り組んでいる。

この2つ目の結論については思うところがあったので、以下コメントします。


まず、租税回避の蓋然性については実効税率を用いて確認する手法を採られています。

その上で、日本は2018年度の実効税率ゼロの会社が極めて少ないこと、例えばイギリス、オーストラリア、カナダ、中国はそれぞれ100社以上実効税率ゼロなのに対し、日本は2社であったことをもって租税回避の蓋然性が低いと結論付けられています。

この点、日本の場合は住民税均等割が法人税等に計上されること、法人税法上の中小法人等以外の法人については100%繰越欠損金を充当できない制限が課せられていることから実効税率がゼロになることは基本的にはありえない法制度になっていて、租税回避の蓋然性を実効税率ゼロか否かだけで判断するのは難しいと思われます。


また投資家への還元の積極性については配当性向の高低を指標に用いられています。

2018年度GDP上位10カ国の中では日本以外の9カ国で配当性向の中央値はほぼゼロである一方、日本企業は配当性向の中央値は25.0%であり10カ国の中で配当性向が最も高く集中度が高いこと、また2018年度GDP上位10カ国の上場企業(12月決算企業のみ、当期純利益ゼロ除く)に占める配当0の割合は日本が14.6%であるのに対し、その他の国は一番低いアメリカで36.1%であることをもって投資家への還元に比較的積極的であると結論付けられています。

投資家への還元は配当だけに限られません。例えばソニーグループ㈱は配当より自己株式の取得を行うことで、積極的に株主還元を行っている会社と言えます。

また、成長余地の大きい会社は配当するよりも新たな事業投資を行うことが、配当に課税されない分、寧ろ株主還元になります。

日本企業の配当性向が高いのは成熟企業が多く、新たな投資機会に乏しく、結果として配当性向を高めないと株価を維持できないというのが現実だと思われます。


以上、批判的なコメントになりましたが、当ブログ記事の字数の関係でそのようになっただけであり、その他の部分についての異論はなく、かなりの力作でもありますので、ご一読される価値は十分にあると思っております。

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