企業開示に関するアナリストの視点~「企業会計」2021年12月号~
- 佐藤篤
- 2022年1月4日
- 読了時間: 4分
「企業会計」2021年12月号の特集「決算開示のトレンド2021」に「アナリストから見た2021年3月期開示」(以下「当該記事」)という記事が掲載されておりました。
この記事を書かれたのは、過去に公認会計士として監査法人に勤務され、現在はアナリストとして活躍されている方です。
私は公認会計士業から離れたことがないため、制度会計に係る現状や将来の見通しに関して偏った見方をしている可能性があります。
従って、会計監査人の経験があり、且つその立場を離れた公認会計士の方の物の見方というのは、新たな視点を提供してくれることがあり、とても参考になるのです。
そういう訳で当該記事を、期待を持って読んでみました。
以下、当該記事の概要です。
但し、当該記事ではKAMについても取り上げられていますが、別エントリーにすることにし、当エントリーでは省略しています。
財務情報の拡充について
「記載情報開示の好事例集」(金融庁毎年更新)等が後押しした結果として財務情報に比して先んじて充実して来ていた。
「会計上の見積りの開示に関する会計基準」、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」、KAMの導入で、財務情報は2021年3月期に大きく拡充した。
ブラックボックスと揶揄されてきた会計監査について、KAMが導入されたことで監査報告書を通して財務諸表事業者の理解が進んだ。株主による会計監査人への監督機能も高まった。変動リスクのある財務情報の識別も可能となった。
会計上の見積りの記載には、以下の3パターンがあった。
MD&Aでは表題と注記事項への参照情報を記載し、注記事項に全て記載しているケース
MD&Aには会計基準に記載されている一般の概要を記載し、注記事項にKIMとの整合性に配慮した具体的な財務数値や詳細な記述をしているケース
両方に概要を記載し、さらに注記事項にて詳細な情報を追加しているケース
財務諸表利用者としては、2箇所に分割して記述されているよりも一か所にまとめて開示されている方が分かりやすい。
会計上の見積りや経営者の判断は財務情報そのものであること、注記情報に記載されることで会計監査の対象となることから、一箇所にまとめて開示するのであればMD&Aではなく、注記事項として開示されることを期待する。
会計上の見積りに関する注記の項目について
KAMに記載されている項目だけを記載しているケースが散見されたのは残念。税効果、退職給付、減損テスト(来期以降は収益認識も)はKAMに記載するか否かにかかわらず注記事項に記載すべきと考える。
期待以上の内容としては、基準で提示された「翌年度の財務諸表に与える影響」として、注記事項の中で感応度分析を記載している会社があったこと。
企業開示全般に係る今後の課題
今後気候変動等のサステナビリティ報告が導入され、有価証券報告書の記載量の増加が作業負荷の増加に直結する懸念があるが、現状の記載内容は有益であり、簡素化、省力化は慎重に議論すべき。
新たな情報開示については必須記載項目を設けることや雛型の整備などで一定の比較可能性を持たせることも期待される。
感想
財務情報の拡充について
現在の有価証券報告書は同じ内容が複数個所に記載される部分があり、そこに改善の余地があるというのは同感です。
会計上の見積りに関する注記の項目について
税効果、退職給付、減損テストについては必須とすべきとのことですが、これらに重要性がない場合にまで何等かの注記をするのはそもそも制度趣旨に反するし、財務諸表利用者をミスリードさせる可能性もあります。ただ、これら3項目に重要性がない場合が稀であることは事実で、重要性がない場合はその旨を注記することで。必須項目とするという方法は採れそうです。
企業開示全般に係る今後の課題について
特に有価証券報告書について、年々ボリュームが増大しており、特にIFRS任意適用会社についてはとても読み切れるものではなく、ハイライト情報や財務三表をみて気になった箇所を辞書的に参照するという使い方を個人的にはしています。
そのように割り切れば、簡素化、省力化は必要ないという判断で差し支えないと思います。
また、今後の気候変動関連の開示については、現状各企業でバラバラであり、有価証券報告書のような制度開示は定型化したほうがよいという点は賛成です。その上で不足すると各企業が判断した部分については、各企業が任意の形式で開示するのが望ましいように思います。
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