会計方針の選択に係る留意点
- 佐藤篤
- 2021年12月28日
- 読了時間: 2分
かなり昔のことですが、ある関与先企業から繰延資産を計上したい旨の相談を受けたことがあります。対象となる取引はその時に初めて発生したものであり、継続性の問題もなかったため、繰延資産を計上すること自体に会計上の問題はないと回答したのですが、それに加えて以下のような説明をしました。
繰延資産は会計上認められている処理だが、これが貸借対照表に計上されていると、一時償却できる支出を繰延処理している訳で、その点を捉えて、この企業は損益的に厳しい状況にあるのではないか、という憶測を呼ぶことになりかねない。実際に損益的に厳しい状況にないなら、あえて繰延資産として会計処理する必要はないのではないか。
その関与先企業が結局どのような会計処理を選択したかはここには書きませんが、なぜこんなことを書いているかといいますと、「企業会計」2021年12月号に「決算開示のトレンド2021」という特集があり、その中に会計方針の変更についての記事(以下「当該記事」)があったからです。
複数の会計処理が認められている場合にどの会計処理を選択するかが会計方針です。この会計方針の選択によって損益が大きく変わることがあり、会計方針を変更することで、会計上の利益を増減させることが可能です。
ちなみに会計方針の変更には2種類存在し、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」では、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更とその他の会計方針の変更(当該記事では「自発的な変更」としている)に分けられますが、会計上問題になりがちなのは自発的な変更の方です。
当該記事によれば、2021年3月期の自発的な会計方針の変更は44件あり、そのうち23件が固定資産の減価償却方法を定率法から定額法へ変更するものとのことで、結果的に2021年3月期の自発的な変更に関しては、利益に対してマイナス影響よりもプラスの影響が著しく多くなっているとのことです。
この23社がどういった意図をもって減価償却方法を定率法から定額法へ変更したのかはわかりません。そうとは決算書へ注記していなくても、IFRSの任意適用に先だって係る変更を行うケースもあるからです。
ただ、減価償却方法を定率法から定額法へ変更した場合、利益は変更しなかった場合よりも増加するので、その企業は損益的に厳しい状況にあるのかな、と勘繰られる可能性があるということです。
そういう訳で、会計方針の選択、変更にあたっては、財務諸表利用者へどのような印象を与えるかも考慮した上で意思決定していただきたいと思っております。
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