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財務会計の存在意義の低下~「企業会計」2025年4月号~

  • 佐藤篤
  • 5月9日
  • 読了時間: 3分

「企業会計」2025年4月号の連載「財務会計の機能―実証研究の現在地と未来」の第4回は「債務契約の展開」(河内山拓磨)でした。


当該論考は、負債調達における財務会計の役割についての様々な研究成果の紹介なのですが、その中に財務会計の相対的重要性についての記載があり、個人的にもやもやする内容でした。

今回はその部分を取り上げます。

 


相対的重要性

  • 公開会計情報の持つ役割の、私的情報による代替可能性

  • 銀行等の融資機関は借手企業に関する私的情報源を持つため公開会計情報への依存度が低下する可能性がある

(研究結果)

  • 34カ国の企業サンプルを用いた分析の結果では、米国では会計の質と投資の効率性の間に有意な関係性が観察されるが、日本ではこれが観察されないことが発見された。日本では系列や銀行といった資本提供者が私的情報源を持っているため、公的な会計報告の質が資本提供に関する意思決定と関連しない可能性がある。

  • 米国企業を対象に社債発行と銀行借入の比較分析を行った結果、財務困窮度の高い(モニタリングが必要な)企業では、銀行が持つ私的情報が会計の役割を低下させることが示された

  • 中小企業における発生主義会計の採用有無に注目した研究では、発生主義会計を採用している企業は負債コストが低い傾向にあるが、この関係性は銀行―企業間の関係性が未成熟である場合に顕著になることが示されている

  • 日本企業を題材にした研究では、会計の質と社債利率スプレッドの間に負の関係性があるが、この関係性はメインバンクを持つ社債発行企業の財務状況に依存することが報告されている。つまり、メインバンクがモニタリングを強める状況では、社債権者はモニタリングを銀行に委ねるため、質の高い会計報告に対する需要が低下することが示されている。

  • メインバンクからの借入依存度が低い企業において財務制限条項が利用されることも報告されている。私的情報を通じたモニタリングが困難な状況において財務制限条項が代替的に利用されることを示唆している。

 


“Financial statements not required”と題された論文(2024年)

  • リスクマネジメント協会から取得したデータの元、銀行による証明済み財務諸表の収集が時系列に顕著に減少していることを示している。この減少傾向は、フィンテック企業であるPayNetの信用スコア・信用レポートの利用が融資機関で進展したこと、および、伝統的な融資技法に依存しないノンバンクが小規模事業への融資を増加させたことに起因していることが実証されている。

 


感想

負債の引受け手を含めた投資者にとって、投資先企業の将来キャッシュ・フローを合理的に見積もる手段として財務会計より優れた何かが現れたら、あっさりとそちらへ流れるだろうと思われます。

会計士にとって財務会計の存在価値の低下は、自分達の存在価値の低下とイコールという意味で看過できない問題です。


今日明日でどうなるという話ではありませんが、今後少しずつ財務会計の役割が減っていく可能性は十分にあり得ると思っています。

だからといって、今から何か出来る訳でもなく、実際にそうなってから考えるしかないのですが。

 

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