top of page

利益調整に係る実証研究からみえてくること~「企業会計」2025年3月号~

  • 佐藤篤
  • 4月15日
  • 読了時間: 3分

「企業会計」2025年3月号の連載「財務会計の機能-実証研究の現在地と未来」は「利益調整研究の展開」(山口朋泰)でした。

総じて面白い内容でしたが、その中から、会計監査に携わる会計士として知っておいた方が良いと感じた部分を取り上げたいと思います。

 


財務会計の機能

  • 意思決定支援機能

  • 契約支援機能

  • 経営者は投資家の意思決定や各種契約に影響を与える目的で利益の調整を試みる可能性がある

 


利益調整

  • 「一般に公正妥当と認められた会計原則の枠内で、経営者が意図的に利益を調整すること」と定義される

  • 形態としては、大きく会計的裁量行動実体的裁量行動に分けられる

 


会計的裁量行動

  • 会計上の操作で利益を調整する行動

  • 会計方針の選択、利益計上区分の調整等

 


実体的裁量行動

  • 事業活動の操作で利益を調整する行動

  • 研究開発費の調整、売上操作、裁量的支出の削減、過剰生産等

 


利益調整の要因

(株式発行)

  • 将来的に株式市場で資金調達する必要性が高い企業において、IPO前の会計的裁量行動は減少することが示された


(監査の品質)

  • 分析結果が一様でなく、今後も代替的な変数や分析手法を用いて研究を蓄積していく必要がある


(SOX法)

  • 当該法施行後に会計的裁量行動は減少したが、実体的裁量行動は増加したことが確認されている

  • 日本版SOX法施行後に日本企業の減益回避や経営者予想利益達成を意図した利益調整が減少したことが示されている


(取締役会の独立性)

  • 米国企業を対象に取締役会の独立性が高いほど利益増加型の会計的裁量行動が抑制される証拠が示されており、同様の証拠は英国企業、豪州企業、日本企業でも存在する。

  • 日本企業では、監査役会の独立性が高いほど会計的裁量行動と実体的裁量行動は抑制されるが、取締役会の独立性は両行動を抑制しないことが示されている


(投資家保護)

  • 投資家保護が強い国の企業ほど会計的裁量行動が抑制される一方、実体的裁量行動は増加するという証拠が多い


(IFRS)

  • ①会計処理の選択肢を極力排除し、経営者の裁量を制限しているため、利益調整を抑制する、⓶原則主義で解釈指針の設定も限定的なため、裁量の余地が増え、利益調整を促進する、という相反する予測があり、実証結果も混在している。

  • 日本では、利益平準化を抑制する、会計的裁量行動を促進するが実体的裁量行動とは無関連といった結果が報告されている


(経営者の特性~自信過剰、ジェンダー~)

  • 女性は男性よりリスク回避的で、金銭的報酬のために非倫理的な行動をとることは少ないため、女性経営者ほど利益調整を実施しないという結果がある

  • ただし、中国企業では男女間で利益調整の程度に差はなく、女性経営者が利益調整を抑制するのは男女平等性が高い国だけという結果もある


(コロナ不況)

  • 各国で利益調整が活発になったことが示されている

  • 一方、米国企業で利益減少型の会計的裁量行動が実施されたことが示されている。経済全体に悪影響を及ぼしたコロナ不況において企業はビッグ・バスを実施するのに好都合だったと指摘している。

 


感想

上記からすると、経営者に会計的裁量行動を思いとどまらせるための財務会計関連制度のグランドデザインとしては、

  • 取締役会と監査役会の独立性強化

  • 投資家保護的な関連法規改正

  • 女性役員の増加促進

が有効と思われ、現実の動きと概ね整合しているように感じられます。

 

一方で、その結果として実体的裁量行動が更に増加する可能性があります。

これは会計監査人には如何ともし難い領域で、取締役会や監査役会の重要性を改めて認識させられた次第です。

最新記事

すべて表示

コメント


記事: Blog2_Post

©2020 by 佐藤篤公認会計士事務所。Wix.com で作成されました。

bottom of page