取締役会監視および組織的倫理観の不全に対する株式市場の反応~「会計・監査ジャーナル」2025年2月号~
- 佐藤篤
- 3月25日
- 読了時間: 3分
「会計・監査ジャーナル」2025年2月号に掲載されていた投稿論文「取締役会監視および組織的倫理観の不全に対する株式市場の反応」(瀧澤創)を読んでみました。
目的
コーポレートガバナンスと内部統制の双方の枠組みに共通して組み込まれている要素として、取締役会による経営監視と組織的倫理観があり、ここに不備のあった企業不祥事とそれ以外を主因とする不祥事とで、株式市場の反応に差異が生じているのかを検証する。
仮説
取締役会による経営監視の不正を主因とする企業不祥事が発覚すると、その企業の株式の負の累積異常リターンは、それ以外を原因とする企業不祥事と比較すると、規模がより大きくなる。
組織的倫理観の不正を主因とする企業不祥事が発覚すると、その企業の株式の負の累積異常リターンは、それ以外を原因とする企業不祥事と比較すると、規模がより大きくなる。
サンプルデータ
金融商品取引法の下で、上場会社が自社の内部統制を評価すべき対象期間となった2008年4月1日を始点とし、2024年3月31日までに発覚した不祥事を対象
サンプル事象は、日経テレコンを検索データベースとして、「横領」、「改ざん」、「偽装」、「情報流出」、「粉飾」、「隠蔽」、「食中毒」、「贈賄」、「強制労働」の9個のキーワードを用いて回答記事を検索(該当件数が極めて多い「独占禁止法」は除外)
上記の基準で抽出された上場会社の不祥事は362件。この中から、以下を除外した結果、対象サンプルは295件となった。
イベント日の前後5営業日内に株価に重大な影響を与える他のイベント(決算発表、収益見通し変更、アナリスト目標株価変更、増配・減配見通し)が生じている事象60件
同一会社で直前10営業日内に別の不祥事が起きているため異常リターンの計測に際しその影響が重複している可能性がある事象1件
異常リターンの計測に際し非上場期間が含まれるか対象期間中に上場廃止となった事象6件
結果と結論
取締役会による経営者の監視不全から生じた不祥事では、そうでない不祥事よりも、負の異常リターンが増幅されることが示された。
指名委員会等設置会社あるいは監査等委員会設置会社が取締役会の経営者に対する監視不全によって不祥事を起こすと、そうでない場合と比較して負の累積異常リターンの程度が緩和される可能性が示された。言い換えれば、伝統的な監査役会設置会社の取締役会不全による不祥事を起こした事象では、それ以外の機関設計の株式会社の場合と比較すると、負の累積異常リターンがより大きい可能性が示唆される。
組織的倫理観の不全によって起こった不祥事では、そうでない不祥事よりも、負の累積異常リターンが大きくなる傾向にあることが示された。
感想
指名委員会等設置会社あるいは監査等委員会設置会社の場合と監査役会設置会社の場合で、負の累積異常リターンに差が出るという結果について、私には合理的な説明が思い浮かびませんが、覚えておく価値はありそうです。
逆に組織的倫理観の不全については、短期的にどうにかできる類のものではなく、且つ発覚していない不祥事の存在を疑わせるため、投資家からより敬遠されるのは納得できるところです。
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