自社株買いによる短期的、中長期的な株価への影響~「企業会計」2025年7月号~
- 佐藤篤
- 7月25日
- 読了時間: 3分
「企業会計」2025年7月号の特集は「増える自社株買い、その効果は!?」でした。
その中の「株価のアナウンス効果と継続実施企業の中長期パフォーマンス」(北岡智哉)を読んでみました。
2015年以降の自社株買い枠設定における分析
発表の1営業日前を基準日とする
対TOPIX相対株価(株価÷TOPIX)を用いる。それにより、当該企業特有の要因により株価が上昇(下落)したのかを捉えることができる。
(発表後における株価の傾向)
発表後の平均値は、1営業日後時点から250営業日後時点まで継続的にアウトパフォームしている。発表直後のアナウンス効果だけでなく、自社株買い発表後に実際に自社株買いが実施される間の需給インパクトも反映されるためと考えられる。
発表後の中央値では、上記の平均値の場合と比べ、特に50営業日後時点以降の株価パフォーマンスが劣後する。発表当初のアナウンス効果で出尽くしてしまう企業も少なくないといえる。
(取得終了日後の株価の傾向)
25営業日後までの間に、平均値でも中央値でも、アンダーパフォームとなるが、125営業日後には、平均値ではアンダーパフォーム分を解消する一方で、中央値で見るとアンダーパフォームを解消しない
(結論)
平均値と中央値の乖離に現れるように、自社株買いの株価への効果は、企業間格差が大きいことが浮かび上がる
自社株買いの株価インパクトを左右する要因
短期的な株価インパクトが大きいのは、過去1年間に10%超の株安となった企業
PBRの低い企業における自社株買い発表はアウトパフォームにつながりやすく、自社株買いの「エージェンシー仮説」と合致する(経営者が過剰な内部留保を株主還元することで、経営者の利害と株主の利害の不一致が解消し、株主のエージェンシーコストが低下する効果)。
特にPBRが0.5倍を下回る企業は、企業の資本価値が毀損されるといった懸念が反映された株価水準であるため、自社株買いによって過剰な資本を還元することで、企業のディスカウントが解消しやすくなると解釈できる。
自社株買いの中長期的影響
TOPIX上場企業のうち、2015年以前から上場している企業を対象に、自社株買いを毎年発表している企業群(「常連企業」、58社)と、1回も発表していない企業群(「皆無企業」、301社)を対象とした
(長期的株価パフォーマンス)
「常連>TOPIX>皆無」の順。常連がTOPIX企業を10年間で+50%前後アウトパフォームする。
皆無企業のうち、財務が良好な企業(自己資本比率が2015年度以降継続して60%以上で赤字経験のない74社)に絞っても、常連企業がアウトパフォームしている
ROEや売上高営業利益率を比較すると、常連企業がTOPIXや皆無企業を継続的に上回る。また、常連企業の方が自己資本比率も外国人投資家保有比率も高い。
総還元性向でも常連企業がTOPIXや皆無企業を継続的に上回っている
感想
内容からは外れるのですが、当該論考は、著者の北岡氏が読み手のレベルに合わせて分かり易く書こうとしたことが伝わってくる文章と構成だと感じました。そのおかげで、ストレスなく読むことができました。
内容的には、「常連企業」の株価パフォーマンスの良さが想像以上でした。
個別株で中長期投資する方々の一つの参考になると思います。
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