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政策保有株式の売却と企業行動~「企業会計」2025年5月号~

  • 佐藤篤
  • 5月27日
  • 読了時間: 3分

「企業会計」2025年5月号に掲載されていた「実証研究から見た政策保有株式の売却と企業行動」(齋藤卓爾)を読んでみました。


以下、その一部のメモ書きです。

 

どのような企業が、どのような銘柄を売却したか~宮島・齋藤(2023)の結果より~

  • 保有企業の特性として、有利子負債の大きい企業、ROEが低く業績が低迷している企業ほど売却する確率が高い。この結果は、本業の悪化時などに、政策保有株を売却し、ROEを引き上げている企業が一定数いることと整合的である。

  • 売却された銘柄の特性では、ROEが低い銘柄、ボラティリティが高く、価格変動の大きな銘柄が売却される確率が高い傾向があった。また、流動性が高く、売却が株価に影響を与えにくい銘柄が売却される確率も高かった。このことは、売りやすいが、投資の観点から見て魅力的でない銘柄から売却されていることを意味している。

  • 相互保有関係にある銘柄は、一方的保有の場合と比べて、売却率(売却のあった政策保有株の銘柄数÷全政策保有株銘柄数)は相対的に約6割も低かった。また保有企業と被保有企業の属する産業間のつながりが強い場合の方が、売却される確率が低かった。

  • 保有側の持株状況も強い影響を与えており、持株比率が低い、資産計上額が小さい銘柄から優先的に売却する傾向が見られた。この結果は、銘柄数ベースでみると政策保有株が大きく減っているように見える一方で、持株比率でみるとあまり減っていないように見えることと整合的である。

  • 相互保有関係にある政策保有株が売却された場合、約4割のケースで2年以内に相手も政策保有株を売却していることが報告されている。

  • 社外取締役の存在が政策保有株、特に相互保有関係にある銘柄の売却を促進する傾向があることを示している。興味深いのは、この結果が保有側企業だけでなく、被保有側企業においても見られたことである。このことは、社外取締役が政策保有株の売却の受け入れに対しても影響を与えていることを示している。

  • 海外機関投資家の存在も政策保有株の売却を促進すると期待されるが、その効果は統計的に有意ではなかった。保有先企業の自社株売却につながる政策保有株の売却を回避する行動が取られているからと考えられる。


(売却資金の使途)

  • 設備投資、研究開発費、M&A、配当、自社株買いなどの企業行動に与えた影響を検証した結果、統計的に有意に増加したのは自社株買いのみであった。これは、政策保有株を売却すると、相手が自社の政策保有株を売却することが多いため、売却された自社の政策保有株の購入に売却資金が充てられているケースが少なくないためと思われる。

 

感想

示唆に富んだ内容だと感じました。

売り易い銘柄から優先的に売却していたり、当該論考とは関係ありませんが、しれっと純投資目的に振り替えていたり、企業経営者側の抵抗感が透けてみえてきます。

意外だったのは海外機関投資家の行動ですが、短期志向故と考えれば合点がいきます。

政策保有株の解消に係る論点は、それぞれの置かれた立場によるそれぞれの思惑がみえてきて面白いですね。

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