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書評「倒産法入門」

  • 佐藤篤
  • 2021年3月24日
  • 読了時間: 3分

最近、個人的に納得感のない民事再生案件を目にする機会があり、そういえば倒産法関連のことってちゃんと勉強したこと無かったな、と思っていたところ、ある本屋さんの新書新刊コーナーに「倒産法入門」(伊藤眞著 岩波新書)(以下「本書」)が並んでいたので、早速購入して読んでみることにしました。


ある事柄の概略を掴みたいと思った時には新書が適していて、中でも岩波新書、中公新書、ちくま新書、講談社新書は信頼度が高いと個人的に感じております。


そんな個人的信頼度の高い岩波新書から出版されている本書は、そもそも倒産とは何かといった内容から始まり、その後破産、民事再生、会社更生、特別清算の制度説明がなされ、最後に各制度に横断的に存在する論点について解説するという構成になっています。

当然既に知っていたことも内容に含まれているのですが、それはそれで断片的だった知識が頭の中で整理されるので、最初から最後まで通しで読む価値はあります。

一方で新たに得られた知識もたくさんありまして、中でも民事再生は個人でも利用できるということを恥ずかしながら本書を読むまで知らずにおりました。我々公認会計士を含む所謂士業全般は破産すると資格が制限され業務遂行できなくなってしまうので、このことは頭の片隅に置いておいて損はありません。もちろん利用しないに越したことはないのですが。

また、本書では現行の倒産法解説に加えて、将来的な制度改正の可能性についても触れられています。その中で気になった箇所を以下引用します。

最近、目的物を特定することなく、担保権者が動産、債権、知的財産権などの事業用資産を包括的に担保目的物とし、しかもその地位を一般債権者はもちろん、他の担保権者にも優先させるべきであるとの提言がなされています(本書166頁より)。

これって会社の事業を丸ごと担保に取ってしまうということですから、最悪の場合、特定の債権者が事業譲渡することも可能になるということでしょうか。個人的には債権者へ権利与えすぎのように感じてしまうのですが、いかがでしょう。


全体的な感想としましては、構成も自然で且つ平易な文章で記述されており、読みやすい著書だと思いました。ただ、私は法律の勉強をしたことがあり、法律関連解説書特有の表現に多少の馴染みがあるのですが、そうでない方が読みやすいと感じるかは判断しかねます。

一方で「それ」などの代名詞が多く使用されていて、何度か「ん?」と引っ掛かり、その都度前に戻りながら読み通しました。

加えて、問題点を示しておいて、その結論は著者の別著作へ委ね、本書には記載されていないという箇所もあります(本書111頁、131頁)。ボリュームの関係でこのような取扱にせざるを得ないのは理解できますが、あと50~100頁くらい厚くてもいいので、結論まで記載して欲しかったなあ、と感じました。

そういえば、岩波新書って本の厚さに統一感があるような気がします。中公新書やちくま新書にはたまに分厚いものがありますが、岩波新書で分厚いものは見た記憶がありません。そういった要因もあるのかも知れません。


いずれにしましても、まとまりがよく読みやすいので、倒産法制度の概略を知りたい方は一読されることをお勧めいたします。

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