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多数決による金融債務調整制度の概要(その1)~「会計・監査ジャーナル」2025年11月号~

  • 佐藤篤
  • 3 日前
  • 読了時間: 4分

更新日:1 日前

「会計・監査ジャーナル」2025年11月号に掲載されていた「多数決での金融債務調整の導入―早期事業再生法の成立とその概要」(川端遼)を読んでみました。

 

概要

  • 令和7年6月6日に「円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律」(以下「早期事業再生法」または「法」、同法に基づく手続を「早期事業再生手続」)が成立し、同月13日に公布された

  • 一定の金融債務に関する債務の減免やリスケジュール等を多数決(議決権の75%以上)で成立させる新制度

  • 長らく全行同意を前提としてきた我が国の私的整理・事業再生実務に与えるインパクトは大きい

 

手続の主体

  • 早期事業再生手続の主体となるのは「経済的に窮境に陥るおそれのある事業者」

  • その実質的な内容は、「事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難となるおそれ」であり(法3条1項1号)、民事再生手続開始申立原因の一つである「事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができない時」(民事再生法21条1項2文)と比べると要件が緩和され、財務状況の悪化が進行していない段階での利用が可能

  • 「事業者」について特段の定義はなく、法人の種別を問わず、また個人であっても事業を営んでいれば利用できる

  • 海外法人も利用は可能。ただし、裁判所の関与を求める(計画に全員同意がない場合の認可決定や、強制執行等や担保権の中止命令を得る)ためには、日本国内に営業所、事務所または財産を有することが必要となる点に留意

 

指定確認調査機関

  • 早期事業再生手続は、「公正かつ中立な第三者」として、経済産業大臣が指定する法人等である指定確認調査機関が監督等を行う

  • 個別事案における確認・調査等の業務は、事業再生に専門的知見を有するものとして指定確認調査機関が選任する確認調査員が行う(法3条6項、15条2項等)

 

対象債権と対象債権者

  • 早期事業再生手続の対象債権者となり得るのは、法2条1項に定める「金融機関等」に限られる(今後省令でその外延が画される)

  • 早期事業再生手続における対象債権は、手続の正式開始時である「確認」の時に対象債権者が有する貸付債権及びその利息等である(同条3項)。保証債権、社債、ファイナンスリース等が対象債権に含まれることになるか否かについて、今後の省令の動向に留意。

  • 多数決による権利変更の対象となりうるのは、対象債権のうち非保全部分に限られ(法11条、12条2項等)、事業者としては、事業継続に必要な資産にかかる担保権者とは個別に合意をする必要がある

 

非保全対象債権者による多数決と、必要に応じた裁判所の認可

  • 計画と一体となって非保全の対象債権の権利の変更を定める議案(法では「権利変更議案」と呼ばれる。)は、最終的に対象債権者集会に諮られる

  • 議決権総額の4分の3以上の同意で可決されるが、同一の対象債権者が議決権総額の4分の3以上を有する場合には、議決権者(頭数)の過半数の同意も必要となる(法20条1項)

  • 多数決による権利変更の対象となりうるのは対象債権のうち非保全部分に限られることから、議決権の額もまた、対象債権のうち非保全部分に応じて算定される

  • 対象債権者決議において全対象債権者の同意がある場合、裁判所の認可を要することなく、可決と同時に権利変更の効力は生じる(法29条)

  • 全員同意には至らなかったものの議決権総額の4分の3以上の同意を得て可決された場合がいわば裁判所の出番であり、事業者の申立に対し、裁判所が認可決定を行うと権利変更決議の効力が生じる(法28条1項)。反対した対象債権者や手続に参加しなかった対象債権者にも効力が及ぶ(同条2項、4項)

  • 裁判所の関与する手続が生じる場合でも、当該手続は非訴訟件として非公開となる(法31条)

 

その他の主たる制度上の特徴として、強制執行等中止命令・担保権実行中止命令及びプレDIPファイナンスがありますが、次のエントリーに回します。

 

感想

抵当権が後順位で実質的に非保全債権である場合の議決権の有無等気になる点はあるのですが、面白い制度だと思いました。

 

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