企業価値担保権の概要~「企業会計」2025年11月号~
- 佐藤篤
- 11月28日
- 読了時間: 3分
「企業会計」2025年11月号の特別企画は「これからのスタートアップ・ファイナンス」でした。
その中の「事業性融資のポイントとスタートアップへの影響」(大川治)において、企業価値担保権について触れられていました。
今回は当該部分を取り上げてみたいと思います。
企業価値担保権の概要
株式会社などの債務者(会社法上の会社に限る)に対する債権を担保するため、債務者の総財産(将来において会社の財産に属するものを含む)を目的とする担保権のこと
(主な目的)
不動産担保・個人保証に依存した融資慣行の是正及び資金調達等の円滑化
(メリット)
ノウハウや顧客基盤等の無形資産も担保として把握できることで、事業性融資の推進、貸し手によるタイムリーな経営改善支援が期待できる
(活用が想定される場面)
スタートアップ等の有形資産に乏しい事業者への融資
新たな事業展開を企図する事業承継・M&Aや事業再生の局面
事業全体を担保目的とするプロジェクト・ファイナンスの局面
(特徴)
債権者は金融機関に限定されず制限はない
貸付金にも限定されない
(仕組み)
一般の担保権と異なり、「信託を利用した担保権設定」である
通常は被担保債権の債権者と担保権者は一致するが、「企業価値担保権信託会社」が担保権者、債権者(「特定被担保債権者」「不特定被担保債権者」)は担保権信託の「受益者」の位置付けとなっており、債権者と担保権者が分離されている
「特定被担保債権者」;対象債権(特定の債権または一定の範囲に属する不特定の債権)等であり、融資による貸付債権が典型的なもの
「不特定被担保債権者」;一定の不特定・未存在の一般債権であり、企業価値担保権実行後に予定される債務者の清算・破産手続きにおいて一般債権者に配当等するための一定の原資を確保する趣旨で被担保債権とされている
(担保権の実行)
担保目的である会社の総財産を事業譲渡によって金銭化することが想定されている
(効力)
企業価値担保権者は、会社の総財産を事業譲渡によって金銭化した換価代金から、他の債権者に先立って配当受ける権利(優先弁済権)を持つ
(効力要件)
設定、変更等は、債務者の本店の所在地で商業登記簿に登記をしなければ効力を生じない
(他の権利との優先順位)
他の企業価値担保権(複数の企業価値担保権を設定可能)との優先順位や、抵当権など他の担保権との優先順位は、対抗要件の具備の先後で決まる
(債務者による事業継続)
債務者は企業価値担保権設定後も、担保目的である総財産を使用・収益・処分して事業を継続できるが、通常の事業活動の範囲を超える担保目的物の使用・収益・処分をする場合は、企業価値担保権者の同意が必要となる
感想
企業価値担保権なるものが法整備されるという話は随分前から聞いていて、「会社乗っ取りに悪用されそうだな」と思っていたのですが、信託という形を採ることでそれをある程度回避できるのかも知れません。
いずれにしろ、面白い動きだと思います。
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