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「その他の記載内容」に係るもやもや感

  • 佐藤篤
  • 2021年6月15日
  • 読了時間: 3分

「企業会計」(中央経済社)2021年7月号に「「その他の記載内容」に関する改訂監査基準のインパクト」と題された特集記事(以下、当該特集)が掲載されていましたので読んでみました。

有価証券報告書はまだいいのですが、会社法の事業報告書に関しては読みながら少し不安になってしまいました。

今回はその辺りの”もやもや感”を記事にしたいと思います。


1.そもそもの監査基準改訂の大まかな内容

従来「その他の記載内容」は会計監査人の監査報告書においては、記載すべき何等かの事項があった場合に追記情報への記載が求められていました。

それが監査基準改訂後は「その他の記載内容」の区分を監査報告書に設けて記載することになります。これは金商法に基づく監査報告書のみならず会社法の監査報告書も該当します。詳しくは当該特集や大手監査法人のホームページをお読み下さい。


2.会計監査人の監査対象範囲への影響

有価証券報告書の経理の状況以外のパートや会社法の事業報告書が監査対象範囲に含まれることになるわけではなく、「その他の記載内容」に係る会計監査人の手続も従来通り通読に止まっており、新たな監査調書の作成が義務付けられるということはなさそうです。

この点、今までも「その他の記載内容」の財務数値と財務諸表との整合性は確認していましたし、それを監査調書扱いとするかどうかは別として、何等かの形でファイリングしているケースもありますので、大幅な作業工数の増加にはならないと思われます。


3.会社法の事業報告書の検討に係る"もやもや感"その1~日程~

従来は会社法の監査報告書日までに会計監査人が被監査会社から事業報告書の提出を受けられず、結果として事業報告書を未検討のまま監査報告書日を迎えていたケースもありましたが。会社計算規則が改正され、会計監査人の監査報告書上も「その他の記載内容」に係る記載が必要となる旨明記されました。

そのため被監査会社からの事業報告書未提出を理由に検討未了状態で監査報告書を提出することはできなくなってしまいました。

今まで被監査会社と会計監査人の間で会社法の監査報告書日経過後に事業報告書の授受を行うことが半ば慣例化してしまっている場合は、決算・監査スケジュールの見直しに係る打ち合わせを早目に行っておく必要がありそうです。


4.会社法の事業報告書の検討に係る"もやもや感"その2~法的責任~

金商法上の会計監査人の責任は「当該監査証明に係る書類について記載が虚偽であり又は欠けているものを虚偽でなく又は欠けていないものとして証明した」場合に損害賠償責任を負う(金商法第24条の4、第22条、第21条第1項第3号)のに対し、会社法上は「会計監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録」が損害賠償責任の対象(会社法第429条第1項、第2項第4号)とされています。

この「会計監査報告」には監査対象範囲ではない「その他の記載内容」に係る監査報告書上の記載も含まれると解せる訳で、会計監査人の責任範囲が拡大されてしまっている気がします。もちろんこの辺りの判断は最終的には法廷でなされる訳ですが。


5.まとめ

監査対象範囲の拡大ではなく従来通り通読で良いため監査報酬の増額はお願いし辛い、でも監査報告書には項目を設けて記載が必要で、且つその(会社法の)監査報告書上の虚偽記載については責任を負わされる可能性があるという、何だか会計監査人だけがババを引いたような制度改訂になっている気がしたのでした。

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