大企業経理の現場の今~「企業会計」2025年4月号~
- 佐藤篤
- 4月29日
- 読了時間: 4分
「企業会計」2025年4月号の特集は「会計業界の人手不足問題を考える」でした。
先週の弊ブログでは、当該特集から会計監査の現場の現況について取り上げましたが、今回は「経理の現場<大企業編>」(高橋公)になります。
現状
会計基準や税制が近年著しく複雑化している
決算発表の早期化要請や英文開示の義務付けなど、作業量も著しく増加している
特に大企業では、グループ内での会計プロセスの統一化が不十分なこともあり、連結修正仕訳などのマニュアル作業が必要となり、連結決算の専門人材確保が課題となっている
国際税務の分野では、人材市場が枯渇状態にあり、適切な人材が見つかっても、希望の給与水準での採用が困難なケースが多い
会計システム面では、様々な事情でシステム刷新が求められるが、会計とIT双方の知識を持ち、業務要件定義から運用設計まで携われる人材の確保は困難で、外部コンサルタントへの依存度が高まっている
解決策
(内部育成)
求められる会計処理を具体的なビジネスプロセスに落とし込むには、その企業特有のビジネスや商慣習および業務プロセスに精通していることが必須であり、企業内の部門間でローテーションを行うことにより、当該企業の多くの分野に精通している経理財務部員を育成することは非常に有効な手段である
一方で、現在は人材プールにあそびがあった時代ではなく、且つ複雑な会計基準や税制にキャッチアップしていくのはオールラウンドプレイヤーの育成方法では限界がある
仮に上記の課題を克服して有望な人材を育成できたとしても、現在の逼迫した外部人材市場にさらされていることに常に注意を払う必要がある
(外部採用)
内部育成の限界を克服する方法として有効
一方で人材市場の逼迫により採用コストは上昇しているが、給与テーブルが固定的な日本の大企業では十分なオファーを出すことが難しい場合がある
また、言語によって可視化できない企業文化の差は厳然として存在しており、それに適応できずに短期間で退職を余儀なくされるケースも多い
(DX等デジタル化)
大企業の経理の現場では、RPAはある程度のレベルまで浸透しており、人間では苦痛であったり、ミスが多かったりする分野で大きな効果を発揮している
一方で、会計基準の複雑化、法定開示の詳細化および会計監査の厳格化等の進展により、人間の判断が求められる分野が広がっていることから、技術の発展は短期的には人材不足対策の切り札とはなり得ないと思われる
(リモートワーク)
地理的および時間的成約を緩和した条件下では、応募は確実に増加している
従来であれば退職を選んだであろう従業員に雇用継続の選択肢を提示できるという観点からもこの技術進展には大きな効果があった
一方で、日々の労務管理やチーム・コミュニケーション、未経験者の指導、若手の育成、業務引継ぎ等の場面においては、どうしても対面での実施が効果的である
(シェアードサービス)
新たに導入するためには、業務プロセスの標準化、ITの統合など多大なコストと時間がかかる
導入済みの企業にとっては、すでに一定の効果は享受済みであり、短期的な対策とすることは難しい
(アウトソーシング)
疾病等による突然の欠員等、目の前の人材不足への即時対応としては、一定の経理財務要員を確保しているアウトソーシング業者に依頼する以外の手段は考えにくい
特に国際税務分野のような極度に高度な専門知識を必要とする分野においては、機能全体をアウトソーシングするという選択を真剣に検討している企業もあると想像する
一方で、アウトソーシングは一般に高価である
また、重要な問題として、社内の経理の知見がアウトソーシングにより外部に流出するという課題がある。結果として、アウトソーシングなしには業務が成立しない状態に陥る可能性がある。
感想
2月か3月頃だったと思うのですが、某有名大企業に対する決算支援業務の話がありました。
恐らく、急な欠員が出たのだろうと推察されますが、今の経理人材の逼迫度を実感させられました。
内容的には概ね昔から状況は変わってないな、という印象でしたが、RPAの浸透とリモートワークによる採用可能人材の拡大は新たな動きだと感じました。
ただ、人材市場の逼迫度が緩和されてくるとリモートワークを廃止する企業が相次ぐのは目に見えているので、現場サイドにとっては悩ましいところだと思います。
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