効率的市場仮説、流動性、CAPMの捉え方の変化~「企業会計」2025年2月号~
- 佐藤篤
- 3月14日
- 読了時間: 4分
「企業会計」2025年2月号に掲載されていた「資本市場研究の展開」(村宮克彦)を読んでみました。
その中から、EMH(効率的市場仮説)、流動性、CAPMについてのメモ書きです。
EMH(Efficient Market Hypothesis;効率的市場仮説)
以前は、EMHを前提として財務報告の有用性を問う研究が大半であった
1980年代以降、EMHとは相容れない証拠が会計分野でも数多く見つかるようになった(例.会計利益とキャッシュフローの差額を表す会計発生高が、将来リターンの強力なシグナルになるという会計発生高アノマリー)
裁定取引とは、割高に価格付けされた証券を売り、リスクやキャッシュフロー構造が似た代替証券を買う行為
裁定取引には割高・割安証券を見つける銘柄探索コストがかかり、そのコストがベネフィットを上回ると、いつまでも裁定取引は行われず、ミスプライシングが放置されることになる。
会計アノマリーを発見するタイプの研究は、裁定取引を行うアービトラージャーの銘柄探索コストを引き下げ、裁定取引の費用対効果を改善することで、結果的に価格をファンダメンタルズ価値へ近づける。
流動性と効率性
売買したいと思った時に思うように売買できない流動性の低い銘柄群では、価格決定の効率性が阻害されることが明らかとなっている
リーマンショック時のように市場全体の流動性が枯渇するとき、個別銘柄の流動性もそれに応じて低下する場合、その銘柄は流動性リスクが高いと表現される。こうした流動性リスクが高い銘柄群においても、会計情報の価格への織り込みが遅れることが分かっている。
流動性は投資家間の情報の非対称性に影響を受けることが知られていることから、財務報告による情報の非対称性が緩和されれば、流動性は向上し、流動性リスクは低下することが期待されるところ、それを裏付ける証拠が続々と蓄積されている。
財務報告の質・量の改善は、情報処理コストの低減や流動性の向上などを通じて市場機能を高め、市場全体にもメリットをもたらすことを示唆している。
CAPMの位置付けの変化
CAPMについては、現実の市場をうまく捉えきれないことが長らく問題視されてきた。
CAPMは「全ての投資家は同じ情報を共有している」という仮定に基づいているが、現実には、投資家間に情報の偏在が存在するため、投資家の期待リターン、裏返せば企業にとっての資本コストは、CAPMが想定するよりも複雑に決定されることが理論的に示された。具体的には、公的情報の量を増やし、開示情報の質を向上させることで、資本コストを低減できるという命題を提示した。
多くの研究の結果、質・量の両方の意味で優れた財務報告や情報開示は、投資家間の情報の非対称性を緩和し、もって資本コストを低減させる効果を有するという結論に至っている。
元来、情報開示は、企業側が物心両面の多大なコストを負担し、投資家側が情報供給のメリットを得るという具合に、企業側が損して、投資家側が得をするという構図で捉えられる傾向にあった。しかし、これらの研究の進展により、優れた情報開示を行いさえすれば、投資家からの資本の供給価格である資本コストを低減でき、情報開示は、企業にもベネフィットをもたらすことが明らかとなった。
資本コストの低減は、将来キャッシュフローを現在価値に直す時の割引率を低下させるため、優れた情報開示は、企業価値・株主価値向上という強力なメリットを企業にもたらす。
感想
EMHについては、その呪縛のようなものがまだ世の中に残っている気がしていて、そこに気付いている投資家と気付いていない投資家の間で、投資パフォーマンスに結構な差が出る可能性がありそうだな、と思いました。
また、財務報告を充実させることに、流動性を改善したり、資本コストを低減させたりする効果があるとは思ってもいませんでした。
そうなのであれば、会計監査も、企業にとって、ただのコストではなく、企業価値向上に役立つ活動の一つと捉えることが出来そうです。
同時に監査する側も何かしら被監査会社に貢献できているというポジティブな気持ちを抱けるのは、双方にとってハッピーなことのように思われます。
Comments