会計監査におけるDX化の取組~EY新日本有限責任監査法人の事例~
- 佐藤篤
- 2021年11月23日
- 読了時間: 3分
「企業会計」2021年10月号で「会計DXの進化」という特集が組まれておりました。
その中で「監査DX」としてEY新日本有限責任監査法人(以下「EY新日法人」)の取り組み事例が紹介されていましたので、一読してみました。
組織体制面の現状
EY新日法人では”Assurance4.0”というデジタル監査への取組方針を2020年2月に公表し、加えて2021年7月1日付でDX認定事業者の認定を取得。
その日の仕事内容に応じて最も効果的と思われる場所を自由に選択して働く”Activity Based Working”を導入して固定席を完全に撤廃
「オペレーション」「アナリティクス」「オートメーション」の各専門分野の人材と知見を集結した専門組織(これを”CoE”=Center of Excellenceと名付けている)へ監査業務の移管を進める。具体的には標準的な監査業務についてはマニュアルを策定し、監査アシスタントや新潟に設置したデリバリーサービスセンターに移管
データサイエンティストやエンジニアなどテクノロジー人材のためのキャリアフレームワークに基づくジョブ型人事制度を、会計士向けの人事制度とは別に2021年7月より新たに導入
感想
コスト削減への意識が強く感じられます。
固定席を撤廃することでEY新日法人の本部が置かれている日比谷ミッドタウン の賃料負担低減が見込めますし、人件費の安い無資格の監査アシスタントの利用や都内より相対的に賃料の安い新潟への別部隊設置も同様の意図が感じ取れます。
今後の更なるDX化の進展に係る課題についても以下のように記載されています。
監査業務主体をヒトからロボットに移管するためには、データを保管するサーバーやRPA(Robotic Process Automation)ライセンスなどのIT費用のほか、自動化ツールを開発するエンジニアやアーキテクトなどテクノロジー人材も必要となる(引用終わり)。
会計監査ビジネスの特徴として、DX化により提供するサービスの質を向上させても、つまり会計操作の検出可能性を向上させても、顧客(監査クライアント)満足度の向上には必ずしも寄与せず、収益の増加に直結させることが困難という問題が存在します。
結果として、会計監査ビジネスのDX化投資は
【テクノロジー人材の人件費含めたIT関連費用】<【削減できる、人件費含めたコスト】
とならなければ意味がないということになります。
大口クライアントの他法人への流出も散見される状況で、EY新日法人が今後どのように更なるDX化を推進していくのか、引き続き注視していきたいと思います。
監査技術上の取組
公開されている上場会社の財務諸表を分析対象とした不正会計予測モデルのアルゴリズムを開発し、過去に不正があった企業と同じような財務指標の動きを異常値とみなす監査ツールを運用
有価証券報告書の記述情報など非財務の開示情報のテキスト分析を監査上のリスク評価に活用する研究の実施
サイバーセキュリティやデータガバナンステクノロジーの信頼性に関する第三者評価・保証業務を提供(デジタルトラスト)
AIによる、サンプリングによらない全量データからの異常検知。教師あり学習と教師なし学習の2パターンを組み合わせて運用。
一部の欧米企業の監査では、ERPシステム上のデータ基盤に内部監査と外部監査の双方がアクセスできる監査用の分析モジュールを構築して監査手続を実施する取り組みを行っている。監査法人に大量のデータを転送するリスク、大量のデータを2重に保管するリスクが解消される一方で、分析モジュールの開発コストが相応にかかる。
この辺りは大手監査法人ならではの面白い取組だと思います。
コスト面以外での大きなボトルネックの一つである会計データ形式の標準化が進めば、更なる進展が期待できそうです。
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