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議決権基準日を見直すという提案(後編)~「会計・監査ジャーナル」2024年12月号~

  • 佐藤篤
  • 2024年12月10日
  • 読了時間: 3分

以前弊ブログで「会計・監査ジャーナル」2024年11月号に掲載されていた「株主総会基準日は有報の後に-株式市場の健全向上に‐(前編)」(三井千絵)を取り上げましたが、今回は12月号に掲載されていた後半パートを取り上げます。

 

前編の内容

  • サステナビリティ情報の開示と保証に関する議論もあって、有報を今より早く開示することは難しくなっている中、株主総会を有報開示の後に開催することだけではなく、株主総会基準日を有報開示の後に持っていくべき。

 

後編の主題

  • 株主総会基準日を有報開示の後に持っていくために今の日本で何ができ、どのような課題があるかについて述べる。

 

会社法上の規定

  • 定時株主総会は事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないものと定められている(会社法第296条第1項)

  • 基準日に株主であったものが行使できる権利は、当該基準日から3ヶ月以内に行使するものに限られると定められている(会社法第124条第2項)

  • 以上より株主総会を今より後ろ倒しするには、現在大多数の上場企業で決算日と同一に定められている基準日を、後ろ倒しする必要がある。

 

基準日の変更

  • 議決権と配当、それぞれの基準日をいつにするかは、定款に記載されていることが一般的であるため、基準日の変更には定款変更が必要となる。

  • 定款変更のためには、株主総会を開催し、議決権の3分の2以上の賛成が必要となるため、実際問題容易ではない。

 

議決権

  • 基準日が到来すると上場企業は基準日時点の株主名簿を作成する。

  • 日本では、議決権行使書を持っていることが「議決権を持っている」ことになってしまっているため、議決権行使書の送付は株主名簿確定後にならざるを得ない。

  • また、議決権行使書は株主総会日の2週間前までに送付する必要がある(会社法第299条第1項)。

 

英国のケース

  • 英国では株主総会の2日前に基準日を置いている。つまり、株主総会2日前までに株式を購入すれば議決権を取得することができる。

  • 機関投資家は最終的に議決権を保有しているかどうかにかかわらず、電子行使システムなどで議決権を行使する。個人株主の場合は、自ら株主として登録をするか、口座を持つ証券会社経由で議決権行使の意志を示し議決権行使書にあたるものを入手する。

  • これだけでは行使された議決権は有効にならず、基準日が来て議決権が確定した後、行使されたものに議決権があるかどうかを照合するという仕組みを採っている。

  • 英国では、議決権の帰属を中央システム(CREST)で管理しており、実質的に議決権が電子化されていることから、このような方法が可能となっている。

 

日本での実現可能性

  • CRESTのようなシステムを構築するには何年もかかるため、現状の仕組みで議決権基準日を後ろ倒しにするには証券代行サービスが提供する株主名簿の確定が肝になる。

  • この点、ある信託銀行では自社のウェブサイトで、基準日から原則3営業日後に全株主名簿を提供する旨を謳っている。

  • そうであれば、6月中旬に有報の開示、6月下旬に基準日の設定、7月上旬に招集通知の発送、7月末に株主総会開催というスケジュールが可能になると思われる。

 

感想

面白い議論だなあと思います。

実現へのネックはやはり定款変更でしょうか。恐らく会社法を改正しないと厳しい気がします。

また、7月末近辺の株主総会開催だと、3月決算会社の第1四半期決算発表と重なることになり、企業側の反対も多く出そうです。

そもそも、株主総会前に有報開示したくない企業も多そうですし。

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