外国人投資家の持株比率と会計不正の関係~「企業会計」2023年4月号~
- 佐藤篤
- 2023年5月2日
- 読了時間: 3分
2023年3月期決算の発表真っただ中ですが、財務諸表利用者であれば誰もが会計報告の適切性、平たく言えば、会計不正の有無が気になるところです。
その点に関して、外国人投資家の持株比率の程度が判断材料になり得るかもしれません。
「企業会計」2023年4月号の「外国人投資家が会計行動に与える影響」(藤山敬史)が、その辺りを解説しています。
以下、当該記事のメモ書きです。
当該記事の目的
企業の会計処理選択や見積り、実際の企業活動による利益の変化(会計行動)に外国人投資家がどのような影響を与えるのかについて先行研究の知見を紹介すること。
仮説
外国人投資家は、関係性を重視する国内の機関投資家に比べて情報劣位にあることから、透明性のある会計行動を求めるとされている。
外国人投資家は経営者をモニタリングすることで直接的に、そして、撤退の脅威(threat of exit)を通して間接的に企業の会計行動に影響を与える。
研究結果
1. 世界各国の上場企業のデータを用いた研究
外国人投資家が多いほど不透明な会計行動の程度が低いこと、そして、その傾向は外国人投資家が企業と関係性を持っておらず、独立しているほど強いことを示唆する証拠を提示している(但し、どのような手段を用いて外国人投資家が企業をモニタリングしているのかについてはブラックボックス)。
2. 日本企業のデータを用いた研究
外国人投資家の持株比率が高い場合、社外取締役比率が高まるほど企業の監査報酬が高いことを発見した。
外国人持株比率が低い場合にはこのような事象は観察されない。
外国人投資家が影響力を持つ場合、社外取締役がプレッシャーを感じて監査の水準を高めることで株主を守ろうとすると主張している。
3. 韓国企業を分析した研究
外国人持株比率が高まるほど企業の利益平準化の程度が高まることを発見した。
利益平準化のために時系列での利益の変動性を抑制するような会計基準を選択している。
4. 中国企業を分析した研究
外国人持株比率が高いほど経営者の裁量行使の程度(異常会計発生高の程度)が低いことを発見した。
一方で、この関係性は国営企業では観察されなかった。
さらに、アナリスト予想の正確性が企業のコーポレートガバナンスの強さを表しているとみなした上で、外国人持株比率が高いほどアナリスト予想の正確性が高く、アナリスト予想の正確性が高いほど経営者の裁量行使の程度が低いことを発見した。
5. 日本企業を分析した研究
小規模外国人機関投資家に注目をして、そうした投資家間の持株が分散しているほど企業の利益平準化の程度が高いことを発見した。
感想
外国人投資家のドライさが、会計報告の適切性に限って言えば、有利に働くようです。
ただ、この結果は、東アジア地域に限った傾向の可能性もありそうです。
欧米企業に関する同様の研究結果もみてみたいものです。
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