四半期報告制度改正とエンフォースメント~「企業会計」2023年5月号~
- 佐藤篤
- 2023年5月26日
- 読了時間: 3分
「企業会計」2023年5月号の特集は「四半期開示見直しが残した課題」でした。
その中の一つ「虚偽記載に対するエンフォースメント」(黒沼悦郎)を読んでみました。
決算短信を臨時報告書の提出事由としないこととなり、それによってエンフォースメントが弱くなることを個人的には懸念していたのですが、どうやらそんなことはないようです。
以下、当該記事のメモ書きの一部です。
DWGの結論
2022年12月27日に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」では、現時点において、四半期決算短信の虚偽記載について民刑事の責任や課徴金の対象とすることは、以下の理由から、不要であると結論付けられた。
これまで四半期報告書のみを対象とした課徴金納付命令は極めて少ないこと
第1・第3四半期報告書廃止後の半期報告書及び有価証券報告書において法令上のエンフォースメントが維持されること
ただし、決算短信については取引所によるエンフォースメントがあり、第1・第3四半期の決算情報の公表についても民刑事の責任が全く生じなくなるわけではなく、課徴金の対象とされる場合もある。
エンフォースメントの手段
1.取引所によるエンフォースメント
改善報告書の提出とその公表(東証・有価証券上場規定504)
特設注意銘柄への指定(同503)
公表措置(同508)
上場契約違約金の徴求(同509)
違反が甚だしい場合には上場契約の重大な違反として、上場廃止の措置が取られる可能性がある(同601①十二)
決算短信における虚偽記載を理由として東証が改善報告書の徴求と公表措置を取った例は毎年5件程度。
2.刑事罰
決算短信に虚偽記載があった場合、上場会社は金商法158条の風説の流布に問われる可能性がある。
投資家向けに決算説明資料を配布することがあるが、それらに虚偽の記載があった場合も同様。
風説の流布に当たるには、目的要件として、有価証券の取引を行うためとか相場の変動を図る目的が必要であり、この点が虚偽の法定開示書類提出罪との相違である。
風説の流布の罰条
行為者は10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金又はこれらの併科(金商法197①五)
法人は7億円以下の罰金(金商法207①一)
これは有価証券報告書等の虚偽記載と同水準
3.課徴金
風説の流布は課徴金の対象にもされている(金商法197)。但し適用された例はない。
この点、四半期報告廃止後の第1・第3四半期の決算短信の虚偽記載に対しては課徴金が適用される例が出てくる可能性はある。
しかし、風説を流布したものが流布期間に有価証券の売買等を行った場合に限って課徴金額が算定される仕組みが取られている(金商法173)ため、決算短信を公表した会社役員が自社株の売買をしていない場合には、賦課される課徴金の額を算出できず、課徴金は課されない。
4.民事責任
有価証券報告書等を提出する会社及び当該会社の取締役は、一定の場合に不法行為による賠償責任を負うことがある(西武鉄道事件の裁判例)。
よって、重要な事項について虚偽の記載のある決算短信や決算説明資料を公表した場合、その作成・公表に関与した取締役および会社は投資者に対し不法行為に基づく損害賠償責任を負うと考えられる。
ただし、やや問題となるのは、決算短信・決算説明資料の作成・公表に直接関与しなかった取締役・監査役・執行役等が不法行為責任を負うかどうかであるが、その可能性はあると考えておくべき。
5.他の規制によるエンフォースメント
インサイダー取引規制
フェア・ディスクロージャー・ルール
結論
四半期報告書を四半期決算短信へ一本化しても、虚偽記載に対する刑事と民事の責任に大きな変更は生じない。
コメント