会計発生高と景気減退期の決算~「会計・監査ジャーナル」2022年11月号~
- 佐藤篤
- 2022年10月28日
- 読了時間: 3分
更新日:2022年11月17日
「会計・監査ジャーナル」のアカデミックフォーサイト、2022年11月号は「CEOレターのトーンと財務ファンダメンタルズからの不正検出ー米国上場日本企業における実証」(中島真澄)でした。
内容は、CEO(最高経営責任者)レターのトーンやテキストの特徴が不正企業と非不正企業間に差異があるかどうかについて米国上場日本企業で検証した結果の解説です。
当然、当該記事は目的や研究方法、先行研究の紹介等様々な内容で構成されているのですが、インプリケーションだけを示すと以下のようになります。
不正企業経営者は、真実の数字と粉飾した数字を両方知っているため、粉飾した数値を隠蔽あるいは投資者をミスリードする目的で特徴的な用語を用いて論旨を作成しようとするけれども、真実の数値を念頭から外すことができず、結果としてナラティブは財務ファンダメンタルズと整合しないものとなってしまう。
要は、素直さがなく、難解で技巧的な文面のCEOレターになってしまうということのようです。不正が発覚した時の責任逃れが当該CEOの念頭にあったであろうことを考慮すると、そうなってしまうのも納得です。
ところで、当該記事の分析過程において会計発生高(アクルーアル)という概念が出てきます。
この会計発生高、一般には以下のように定義されています。
決算上の利益と現金収支(キャッシュフロー)の差のことをいう。現金収入を伴う質の高い利益かどうかを見極める指標で、特別損益を除いた税引き後の利益から営業キャッシュフローを引いて算出、マイナスとなる企業は、現金収入を伴った質の高い利益を産み出している企業とされる。(野村證券㈱ホームページの証券用語解説集より)
損益は売掛金や棚卸資産をいじることで粉飾できてしまいますが、キャッシュフローはそれが通用しないため、会計発生高が大きくプラスとなっているようなケースは、季節変動が大きいビジネスを除き、注意が必要となるということです。
何故こんなことを書いているのかと言いますと、現在2023年3月期第2四半期を中心とした決算発表シーズン真っ只中で、日々様々な企業の決算短信を眺めているのですが、この会計発生高がプラスとなっている企業決算がいつになく目に付くような気がするのです。
今回の決算は、主に米国や中国の景気減速、原材料価格の上昇と円安によるコスト増の影響により、あまりいい内容にはならないはず、という目論見がありました。
ところが、それに反して、増収増益の良い決算や年度見込の上方修正が目に付きます。
ただ、よくよく決算短信を眺めてみると、損益のわりに営業キャッシュフローが振るわない企業が多いのです。
そしてそのような企業のほとんどは棚卸資産が大幅に増加しており、営業キャッシュフロー悪化の要因となっています。
言うまでもなく、このことが直ちに不正会計を行っているということにはならないのですが、需要が減退して在庫が積み上がっている可能性は十分に考えられます。
だとすると、下半期の業績はあまり期待できない可能性が高くなります。
現在のように景気後退の可能性が高いタイミングでの決算は、従来以上にキャッシュフローのチェックが欠かせないなと感じます。
コメント