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リモート棚卸立会の留意事項

  • 佐藤篤
  • 2021年1月14日
  • 読了時間: 3分

更新日:2021年6月22日

以前、事業会社の経理部長をしている知人と話をしていた時、その方の会社は棚卸資産がない会社だったのですが、「在庫がないと会計操作するのは難しい」という内容のことを仰っていたことを覚えています。過去の粉飾事例でも在庫は多用されており、それだけ監査証明を出す会計監査人にとって、棚卸資産はリスクの高い勘定科目であります。

そういう訳で、棚卸資産が財務諸表において重要である場合は実地棚卸の立会を実施することが要求されています(監基報 501 第3項参照)。監査人にとって単に不都合であるということや時間または費用の問題それ自体は監査人が実地棚卸立会を省略する十分な理由とはなりません(基報501のA12項参照)。

実質的に実地棚卸の立会は義務化されているといってよいと思います(もちろん、重要性次第ですが)。


一方で、現状のコロナ・パンデミックを受けて、被監査会社側から実地棚卸への立会を拒否されるケースもあり、その対応としてリモートによる棚卸立会の実施を検討する場合があります。

その際の指針としてJICPAから2020年12月25日にリモートワーク対応第2号「リモート棚卸立会の留意事項」(以下、リモ対#2)が発表されていました。

詳細な中身はリモ対#2本文または大手監査法人のホームページを見ていただければ十分かと思いますので、ここでは一読しての感想を述べるにとどめたいと思います。


全体的な印象としてこのリモ対#2は、リモート棚卸立会は実地棚卸立会に比べて、(適切な表現かわかりませんが)監査手法としての「質が劣る」という前提で構成されているように感じました。

当然、現地へ赴いた方がリモートによった場合よりも実地棚卸が適正に実施されたという心証を得やすいだろうとは直感的にも思うところです。

その表れの一例として、一般に原本により提供された監査証拠は、デジタル化などにより電子的媒体へ変換された文書によって提供された監査証拠よりも証明力が強いとされており(監基報500のA31項参照)、そのため監査証拠のデジタル化に伴う証拠力の充分性についての何らかの検証が必要である、という趣旨のことがリモ対#2に記載されています。

これ、確かにその通りなのですが、具体的にどのように検証すればいいのか、私にはパッとは思いつきませんでした。ちゃんと検証しようとすると、結構面倒なことになりそうな気もします。


また、携帯電話機を利用している場合、その位置情報を利用してリモート棚卸立会映像の送信場所が対象事業所であることを確かめる、とも記載されています。

例えば、横浜の工場倉庫が本来のリモート棚卸立会の場所なのに、被監査会社側が意図的に名古屋の工場倉庫の映像を送信することで棚卸結果を操作することもできるわけです。中々大胆なやり方ではありますが(笑)。


さらに、可能であれば、リモート棚卸立会実施後監査報告書日までの間に保管場所に赴いて、リモート棚卸立会で確認した映像等と矛盾が生じていないか実際に現地で確認することも検討する、とも記載されていますが、実務上、特に3月決算の場合は会計監査人側の人繰りが厳しいだろうなあ、と想像されます。


リモ対#2では上記のような追加的な監査上の対応が求められており、実地棚卸よりも監査作業工数が増えそうだなあと感じるわけですが、一方でリモ対#2は新たな要求事項を設けるものではないとも明記されており、必ずしもリモ対#2に従ってリモート棚卸立会を行わなければならない訳ではない、というのは多少の救いでしょうか。


いずれにせよ、リモートでの棚卸立会を実施する場合は、被監査会社と会計監査人側で、トライアルの日程含め、詳細な打ち合わせを早目に行っておく必要がありそうです。

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