22年間に金融庁が監査人に課した監査証明業務に関わる行政処分~「会計・監査ジャーナル」2024年11月号~
- 佐藤篤
- 2024年11月15日
- 読了時間: 3分
「会計・監査ジャーナル」2024年11月号の連載アカデミック・フォーサイトは「監査の失敗研究からみた監査証明業務に関わる金融庁の行政処分事例の検討‐2002年〜2024年‐」(栗濱竜一郎)でした。
当該論考では、処分の形態別にその件数と処分内容をまとめてくれています。
それが中々興味深い内容でしたので、取り上げます。
2002年7月1日から2024年6月30日までの22年間に及ぶ期間に、金融庁が監査人に課した監査証明業務に関わる行政処分の事例に関して検討を行っている。
2002年7月1日から2024年6月30日までの22年間に78件存在し、124名の公認会計士と56の監査法人が処分を受けた。
78件の事例は、
①故意及び相当な注意を怠ったことによる虚偽証明
⓶故意による虚偽証明
③相当な注意を怠ったことによる虚偽証明・不当証明
④監査証明業務に関わる法令違反
⑤運営が著しく不当の各事例
に区分できる。
78件の事例の中には、上記の複数の処分理由で処分された事例が13ある。
故意及び相当な注意を怠ったことによる虚偽証明
3件と少ないが、全て中小監査法人による組織的監査で行われていた。
公認会計士に対する処分は登録抹消が最も多い。
監査法人に対する最も重い処分は業務停止5月(清算業務除く)であった。
故意による虚偽証明
5件と少ない。主に、監査法人による組織的監査で行われていた。
公認会計士に対する処分は登録抹消が最も多い。
監査法人に対する最も重い処分は業務停止1年であった。
相当な注意を怠ったことによる虚偽証明・不当証明
26件と多い。主に、監査法人による組織的監査で行われていた。監査法人の処分数は16法人で、このうち大手監査法人が8法人である。さらに、大手監査法人のうち1法人は4回、また別の1法人は3回も処分されていた。
公認会計士に対する処分は全て業務停止で、期間としては3月が最も多かった。
監査法人に対する処分は戒告が最も多く、最も重い処分は業務停止1月と業務改善命令であった。
監査証明業務に関わる法令違反
15件存在した。法令違反ごとに集計すると、信用失墜行為違反が5件、業務制限違反(利害関係規定違反)が5件、研修の履修義務の不履行が3件、守秘義務違反が2件、利害関係明示違反が2件、社員競業禁止規定違反が2件であった。
公認会計士に対する処分では戒告が最も多かった。なお、信用失墜行為違反の内容は様々で、登録抹消の処分が下された事例もあり、違反内容に応じて処分が異なることに留意されたい。
監査法人に対する処分は戒告が最も多く、最も重い処分は業務停止1月であった。
運営が著しく不当
42件と最多であった。当該処分は、公認会計士に対する処分の1件を除き、全て監査法人に対する処分であった。中小監査法人の処分数が多いのが特徴。
公認会計士に対する処分は業務停止1月であった。
監査法人に対する処分は業務改善命令が最も多く、最も重い処分は契約の新規の締結に関する業務停止1年と業務改善命令であった。
栗濱先生の見解
各処分理由において十分な説明がないまま処分された事例があり、処分内容に関して理解しがたい部分がある。金融庁は処分内容の決定などに関して十分な説明を行う必要があると考える。
感想
昨年、太陽有限責任監査法人が契約の新規の締結に関する業務の停止 3月の処分を受けましたが、過失内容に比して随分重い処分だなあ、という印象を抱いた記憶があります。
何せ、㈱東芝の不適切会計の際に新日本有限責任監査法人が受けたのと同じ内容でしたから(課徴金額等、他の処分内容はもちろん異なりますが)。
そういったこともあって、上述の栗濱先生の見解は御尤もと思った次第です。
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